老年歯科医学用語辞典 追加用語

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EAT-10(イートテン)

問診票を用いて嚥下の機能を簡単に評価するためのツールの一つ。飲み込みの問題により体重減少や外出が妨げられるか,飲み込みが苦痛か,さらには液体や固形物,錠剤を飲み込むときに努力が必要かなどを4段階で10項目で評価する。最低点は40点であり,誤嚥の検出をする場合は合計点15点以上を用いるとよいとされる。嚥下の効率や安全性に問題があるかを測るもので妥当性と信頼性は検証されているが,飲み込むことに対してどのような問題を抱えているかという設問が多いために,現在経口摂取をしていない対象への質問には向かない。
(戸原 玄)

医療費適正化計画(medical care expenditure regulation plan)

国民の高齢期における適切な医療の確保を図る観点から、包括的に医療構造改革を進めるための計画。根拠法は「高齢者の医療の確保に関する法律」であり、2008年度より開始されている。医療費だけに特化した計画ではなく、既存の3計画(医療計画、健康増進計画、介護保険事業支援計画)の改正・追加を含めて、これまで第一期・第二期医療費適正化計画が実施されてきた。2018年度からは第三期医療費適正化計画が開始され、病床機能の分化および連携の推進の成果を踏まえた入院医療費の推計式の設定、外来医療費の推計式の設定、現在の行動目標(特定健診・特定保健指導の実施率、平均在院日数等)などについて医療費適正化効果の観点から見直しが図られる。
(三浦宏子)

MNA,MNA-SF(エムエヌエー)(エムエヌエー - エスエフ)
(mini nutritional assessment,mini nutritional assessment-short form)

65歳以上の高齢者の栄養状態を簡単に評価するためのツールの一つ。基本的には問診にて過去3カ月間の食事摂取の減少,体重減少,および自力で歩けるかなどを評価するが,BMIもしくはふくらはぎの周囲長の実測値を評価項目の一つとして用いる。前者は18項目で合計30点,後者は6項目で合計14点で評価する。前者の場合24~30点は栄養状態良好,17~23点は低栄養の恐れあり,16点以下は低栄養,後者では12~14点は栄養状態良好,8~11点は低栄養の恐れあり,7点以下は低栄養と判定する。栄養状態の判定目的に用いるものであり,嚥下機能の状態の把握などに用いるものではない。
(戸原 玄)

OHAT(オーハット)(oral health assessment tool)

口腔内の問題を,8項目(口唇,舌,歯肉・粘膜,唾液,残存歯,義歯,口腔清掃,歯痛)に分け,健全から不良までの3段階で評価する口腔スクリーニングツールである。自分で口腔内の問題を表出できない要介護高齢者の口腔問題を発見するために,Chalmersらによって開発された。粘膜の衛生状態や口腔乾燥だけでなく,義歯の不適合,破折やう蝕や残根なども評価されるのが特徴である。いずれかのOHATスコアが2点以上だと歯科依頼を検討とされている。パブリックユースであり,OHAT日本語版とその解説資料は,藤田保健衛生大学医学部歯科教室のウェブページからダウンロード可能である
http://dentistryfujita-hu.jp/index.html 2018/3/14現在)。
(松尾浩一郎)

介護認定審査会(certification committee of needed long-term care)

認定調査員が作成した調査票と主治医意見書に基づく一次判定結果で推計される要介護度と認定調査票の特記事項および主治医意見書の内容を比較し,介護認定審査会委員の経験や専門性の観点から介護に要する時間を勘案して,最終的な要介護度の判定(二次判定)を行う。市町村単位で設置されており,その委員は保健・医療・福祉に関する学識経験者で構成されている。介護認定審査会の判定結果は,保険者である市町村へ通知される。
(三浦宏子)

かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(dental clinic with enhanced dental care by family dentist)

地域包括ケアシステムにおける地域完結型医療を推進していくため,厚生労働大臣が定めた施設基準に合致し地方厚生局などに届け出た歯科診療所のこと。う蝕や歯周病の重症化予防,そして摂食機能障害や歯科疾患に対する包括的で継続的な管理を行うことにより,新たな点数や加算が得られる。必要な施設基準は,以下の11項目である(平成28年3月4日 保医発0304第2号より)。
  1. 過去1年間に歯科訪問診療1又は2,歯周病安定期治療及びクラウン・ブリッジ維持管理料を算定している実績があること。
  2. 次に掲げる研修をいずれも修了した歯科医師が1名以上配置されていること。
    ア 偶発症に対する緊急時の対応,医療事故及び感染症対策等の医療安全対策に係る研修
    イ 高齢者の心身の特性,口腔機能の管理及び緊急時対応等に係る研修
    なお,これらの研修については,同一の歯科医師が研修を修了していることでも差し支えない。また,既に受講した研修が要件の一部を満たしている場合には,不足する要件を補足する研修を受講することでも差し支えない。
  3. 歯科医師が複数名配置されていること又は歯科医師及び歯科衛生士がそれぞれ1名以上配置されていること。
  4. 診療における偶発症等緊急時に円滑な対応ができるよう,別の保険医療機関との事前の連携体制が確保されていること。
  5. 当該診療所において,迅速に歯科訪問診療が可能な歯科医師をあらかじめ指定するとともに,当該担当医名,当該担当医の連絡先電話番号,診療可能日,緊急時の注意事項等について,事前に患者又は家族に対して説明の上,文書により提供していること。
  6. 当該地域において,在宅医療を担う保険医療機関と連携を図り,必要に応じて,情報提供できる体制を確保していること。
  7. 当該地域において,他の保健医療サービス及び福祉サービスの連携調整を担当する者と連携していること。
  8. 口腔内で使用する歯科医療機器等について,患者ごとの交換や,専用の機器を用いた洗浄・滅菌処理を徹底する等十分な感染症対策を講じていること。
  9. 感染症患者に対する歯科診療について,ユニットの確保等を含めた診療体制を常時確保していること。
  10. 歯科用吸引装置等により,歯科ユニット毎に歯の切削や義歯の調整,歯冠補綴物の調整時等に飛散する細かな物質を吸引できる環境を確保していること。
  11. 患者にとって安心で安全な歯科医療環境の提供を行うにつき次の十分な装置・器具等を有していること。
    ア 自動体外式除細動器(AED)
    イ 経皮的酸素飽和度測定器(パルスオキシメーター)
    ウ 酸素供給装置
    エ 血圧計
    オ 救急蘇生セット
    カ 歯科用吸引装置
(羽村 章)

間接訓練(indirect therapy)

摂食嚥下障害に対する訓練のうち食物を使わないものを指す。嚥下機能が低下し食物を使った経口摂取の練習(下記の直接訓練)が不可能な患者,もしくは経口よりの栄養摂取をしているが,むせなどなんらかの嚥下障害を疑わせる症状がある場合に,食物を使わずに嚥下機能を改善させるために行う訓練である。マッサージやストレッチ,リラクゼーションまたは筋力トレーニングなどがある。
(戸原 玄)

緩和ケアチーム(palliative care team)

緩和ケアチームとは,学会や診療報酬制度,各種研究などによってそれぞれ定義が異なるが,回復することができない疾病により人生の最終段階を迎える患者に対し,医師・歯科医師・薬剤師・看護師・介護福祉士・歯科衛生士・臨床心理士など患者にかかわるすべての職種がチームで緩和医療を提供する体制をいう。緩和医療はわが国の診療報酬制度上,悪性腫瘍および後天性免疫不全症候群の患者に対して行われることとされているため,対象患者が絞られて定義されている場合があるが,WHO(世界保健機関)の定義では「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して,痛みやその他の身体的問題,心理社会的問題,スピリチュアルな問題を早期に発見し,的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって,苦しみを予防し,和らげることで,クオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を改善するアプローチである」とされ,対象患者を幅広く含めている。
(阪口英夫)

口腔機能低下症(oral hypofunction,deterioration of oral function)

口腔機能の低下の一段階を示す用語であり,老年期において,「健康」から「オーラルフレイル」「口腔機能低下症」の途中段階を経て,「口腔機能障害」の順に機能低下が進行する。健康な状態に関してはポピュレーションアプローチで対応し,オーラルフレイルに対しては,地域保健事業や介護予防事業による対応が行われる。口腔機能低下症に対しては,一般の歯科診療所での対応,口腔機能障害に対しては,スキルを有する専門医療職による対応が必要である。
口腔機能低下症を構成する症状と検査法は,以下の7つである。
  1. 口腔不潔:舌表面の微生物数の計測(細菌カウンタ),または舌苔付着程度(TCI)の評価
  2. 口腔乾燥:舌粘膜湿潤度測定(口腔水分計),または刺激時唾液量測定(サクソンテスト)
  3. 咬合力低下:咬合力測定(感圧シート),または残存歯数
  4. 舌口唇運動機能低下:舌運動速度・巧緻性の計測(オーラルディアドコキネシス)
  5. 低舌圧:舌圧検査(舌圧測定器),または舌トレーニング用具による判定
  6. 咀嚼機能低下:咀嚼機能検査(グミゼリーのグルコース濃度測定),またはグミゼリー粉砕度評価
  7. 嚥下機能低下:嚥下スクリーニング質問紙(EAT-10),または自記式質問票
上記7項目のうち,3項目以上が該当すると口腔機能低下症と診断する。診断基準の確立や治療ガイドラインなどの整備が待たれる。
(佐藤裕二)

口腔剝離上皮膜(membranous substances in the oral cavity)

「非経口摂取者の口腔粘膜処置」に対応したわが国の健康保険における診療報酬請求上の傷病名。剝離した口腔粘膜上皮と唾液,炎症性細胞や細菌の集積からなるもの。しかし,上皮膜というもの自体が組織学的には存在しない。病理学的には主体として,重層扁平上皮由来の角質変性物,唾液中のムチンで占められ,一部に,細菌塊,細胞浸潤がみられる。「疾病及び関連保健問題の国際統計分類:International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems(ICD)-10(2013年版)」では,K13.2「舌を含む口腔上皮の白板症及びその他の障害」に分類されている。
学術的には明確な定義が確定していない用語であり,日本老年歯科医学会にて臨床および基礎分野の専門職を含めて,慎重に検討中である。
参考 http://www.gerodontology.jp/committee/file/info_20200402.pdf
(大神浩一郎)

高次脳機能障害

いわゆる脳卒中を初めとする脳血管疾患などの疾病や事故などの外傷による脳の損傷による器質的病変が原因で、日常生活に制約のある認知、記憶、注意、遂行機能、社会的行動など高次脳機能に障害が生じる一群の疾患。すなわち、かつて体験したことが思い出せない、今体験していることが記憶に残らないといった記憶障害、周囲に対して注意が散漫になる、注意の集中・持続が困難になるといった注意障害、論理的思考に沿って計画し優先順位を決めて行動できない、抽象的な思考ができなくなるといった遂行機能障害、感情や欲求をコントロールできなくなる、我儘になったり反対に依存したりするようになるといった社会的行動障害である。このような症状に加えてMRI、CT、脳波等で器質的病変が確認され、原因が慢性期に入った際に診断される。治療としては、言語療法や作業療法、理学療法などのリハビリテーションが行われる。
(深山治久)

5期モデル(5 stage model)

5期モデルでは,摂食嚥下のステージを先行期,準備期,口腔期,咽頭期,食道期の5期に区分して説明した臨床的なモデルである。口腔期の開始までは,随意的な制御を受けるが,咽頭期と食道期は,主に随意下の調節を受ける。先行期は,食物を口に入れる前に,その食物を目で見て,鼻で匂いをかぎ,食具で口へと運んでいく動作までを含む。先行期は,それ以降のステージに影響を及ぼしている。準備期とは,捕食した食物を嚥下しやすいように食塊形成し,嚥下が始まるまでのステージである。液体嚥下と咀嚼嚥下では,この準備期の動態が全く異なるために生理学的モデルでは別々のモデルが用いられるが,臨床的には,食物を口腔に入れてから嚥下が始まるまでのステージとして考えればよい。嚥下が開始されて咽頭へと食塊が送り込まれるまでが口腔期,食塊が咽頭を通過し,食道へと入っていくまでが咽頭期,食道を通過していくのが食道期である。口腔期に引き続き,咽頭へと送り込まれた食塊によって咽頭期が惹起され,食物を食道へと送り込んでいく。咽頭期では,口腔,咽頭の数十の神経,筋が連続して活動している。食道期では,食道に送り込まれた食塊が,食道蠕動により胃へと送り込まれる。
(松尾浩一郎)

呼吸サポートチーム(respiratory support team:RST)

呼吸療法が安全かつ効果的に遂行されるようにサポートする,多職種により構成されるチームである。主に病院に入院している人工呼吸器管理下の患者に対応するチームであるが,その他の呼吸療法を受けている患者にもかかわることがある。
具体的な業務としては,病棟看護師などへの適切な呼吸管理についてのアドバイス,人工呼吸器からの早期離脱の援助,質の高い呼吸ケアの提供を担い,そのために適宜カンファレンスや回診,勉強会・講習会を行うことが多い。医師,看護師,理学療法士,臨床工学技士がチームの主な構成職種であり,おのおのが専門的知識を持ち寄って呼吸器疾患患者にチーム医療を提供する。質の高い呼吸ケアの一環として適切な口腔管理を担うべく,歯科医師や歯科衛生士が加わることが望ましいとされている。医科診療報酬の算定も可能である。
(大野友久)

障害高齢者の日常生活自立度(independence degree of daily living for the disabled elderly)

高齢者の日常生活がどれくらい自立してできているかの自立度合いのこと。寝たきり度ともいう。判定は「することができる」といった「能力」の評価ではなく、「移動」にかかわる状態像に着目し、日常生活の自立程度を生活自立から寝たきりまで4段階にランク分けし評価する。この指標は、介護保険制度の要介護認定を受ける際の「要介護認定調査」や「主治医意見書」に用いられている。また、病院などで作成される「看護計画書」や「リハビリテーション計画書」、介護支援専門員が作成する「介護サービス計画」などにも基本情報として記載されている。
(大神浩一郎)

地域ケア会議(community care conference)

地域包括ケアシステムの実現のために,高齢者個人に対する支援の充実と,それを支える社会基盤の整備を同時に推進するための手法として位置付けられている。地域包括支援センターで実施される圏域ごとの個別ケースのケアマネジメント支援のための実務者による地域ケア個別会議と,関係諸機関の代表者を包含する地域ケア推進会議がある。地域ケア会議では,多職種の協働による困難事例などの支援を図り,地域支援ネットワークの構築,高齢者の自立支援に資するケアマネジメント支援,地域課題の把握などを行うため,歯科医師,歯科衛生士のさらなる参画が期待されている。
(三浦宏子)

直接訓練(direct therapy)

摂食嚥下障害に対する訓練のうち食物を使うものを指す。禁食である患者に対して食物を使わない訓練(上記の間接訓練)を行い,嚥下機能が改善した後に安全に摂取可能な食物を練習として摂取させ,徐々に栄養摂取経路としての経口摂取に移行する。
練習という意味合いではなく,経管で栄養摂取している患者がいわゆるお楽しみとしての少量の経口摂取を行っている場合には,直接訓練と表現しないほうが望ましい。
(戸原 玄)

データヘルス計画(data health plan)

レセプト・健診情報などのデータ分析に基づき、保健事業をPDCAサイクルで効果的・効率的に実施するための事業計画のこと。高齢化や生活習慣病の増加に伴う医療費の増加を抑制するために、各保険者にて特定健診やレセプトなどの情報を活用することにより、実施する保健事業をより費用対効果の高いものとし、最終的には健康寿命の延伸を図ることを目指す施策である。すべての健康保険組合は平成26年度に計画を策定・公表のうえ、平成27年度からデータヘルス計画を実施しており、医療ビッグデータ分析を保健活動に活用する取り組みがなされている。
(三浦宏子)

難聴(hearing impairment)

難聴とは、聴覚が低下した状態である。難聴の種類は、①伝音性難聴(外耳や中耳などの伝音系の障害により音が小さくなる)、②感音性難聴(内耳または脳への神経路の感音系の障害により音が歪んで聞こえる、突発性難聴や老人性難聴が)、③混合性難聴(伝音性難聴と感音性難聴の両方を併発したもの)の3タイプがある。難聴の程度は、軽度難聴(ささやき声が聞き取りにくい:25~39dB)、中等度難聴(普通の会話が聞き取りにくい:40~69dB)、高度難聴(大きな声でないと聞き取りにくい:70~897dB)、重度難聴(かなり大きな声ならかろうじて聴きとることができる:90dB以上)に分類される。難聴の程度は、オージオメータ(audiometer、聴力計)による純音聴力検査で調べられる。また障害のある側により両側性難聴とどちらか一方の耳にのみ症状が現れる一側性難聴に分けられる。なお一側性難聴、つまり逆側の耳が健聴の場合、日本の身体障碍福祉法では障害とみなされない。
(小笠原正)

認知症高齢者の日常生活自立度(independence degree of daily living for the demented elderly)

高齢者の認知症の程度を踏まえた日常生活の自立度合いのこと。判定は、何らかの認知症を有するが、日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立しているものから、著しい精神症状や問題行動あるいは重篤な身体疾患が見られ、専門医療を必要とする7段階のレベルがある。この指標は、介護保険制度の要介護認定を受ける際の「要介護認定調査」や「主治医意見書」に用いられている。また、病院などで作成される「看護計画書」や「リハビリテーション計画書」、介護支援専門員が作成する「介護サービス計画」などにも基本情報としても記載されている。
(大神浩一郎)

鼻咽腔閉鎖機能(velopharyngeal function:VPF)

軟口蓋と咽頭後壁および左右咽頭側壁の動きによる口腔と鼻腔を分離する機能のこと。口蓋帆咽頭閉鎖機能とも呼ぶ。発声と嚥下に大きな役割を負う。視診,鼻息鏡検査,ブローイング検査,エックス線検査,内視鏡検査などで評価する。装具による改善が知られており,スピーチエイドや軟口蓋挙上装置が用いられる。
(菅 武雄)

非経口摂取患者の口腔粘膜処置(oral mucosal treatment of parenteral patients)

末梢静脈栄養(静脈点滴,皮下点滴)・中心静脈栄養(中心静脈カテーテル)・経鼻経管栄養(NGチューブ,EDチューブ)・胃瘻(腸瘻含む)などの経管栄養などを必要とする非経口摂取患者に対して行われる口腔衛生管理の1つで,口腔衛生状態の改善を目的として,口腔清掃用具を用いて口腔内のいわゆる剝離上皮膜の除去を行うこと。わが国の健康保険制度上の「非経口摂取患者の口腔粘膜処置」に対応する傷病名は「口腔剝離上皮膜」である。
(大神浩一郎)

FOIS(フォイス)(functional oral intake scale)

現在栄養摂取をどのように行っているかを評価する尺度である。7段階に分類され,全く経口摂取がない場合からお楽しみ程度に食べている場合,経管栄養と経口摂取の併用,さらにはすべて経口摂取であっても物性に制限がある場合や,物性ではなく特別な準備などが必要な場合など,具体的な場合分けがなされている。妥当性と信頼性は検証されている。嚥下障害の程度を表すものではなく,栄養摂取方法を指しているものであることに注意する。
(戸原 玄)

プロセスモデル(process model)

プロセスモデルは,咀嚼嚥下のモデルである。固形物を咀嚼するときには,口峡部は閉じておらず,咀嚼された食物は咀嚼中に咽頭へと送り込まれ,中咽頭で食塊形成される。この動態は,4期モデルでは説明できないために,咀嚼嚥下の動態を説明するためにPalmerらによってプロセスモデルが提唱された。プロセスモデルは,咀嚼嚥下のプロセスをStage Ⅰ transport, Processing, Stage Ⅱ transport, Swallowingの4つのステージに分けている。食物を捕食し臼歯部まで運ぶStage Ⅰ transportに続き,食物を咀嚼により粉砕し唾液と混和することで食塊をつくるProcessingとなる。Processingの途中で,咀嚼された食物は順次咽頭へと送り込まれる。この送り込みがStage Ⅱ transportである。咽頭へと送り込まれた食物は,嚥下までそこで蓄積し,最終的に口腔内でさらに咀嚼された食物と一緒になって嚥下(Swallowing)される。プロセスモデルでは,ProcessingとStage II transportとがオーバーラップしているのが特徴である。
(松尾浩一郎)

Hoehn & Yahrの重症度分類(Hoehn - Yahr grading stage, Hoehn and Yahr scale)

Hoehn-Yahr grading stageあるいはHoehn and Yahr scaleとは、パーキンソン病の全般的重症度を表現する尺度で、運動症状による機能障害度に基いた分類として発表された。
Ⅰ:一側性障害のみ。通常、機能障害はないか、あってもごく軽度。
Ⅱ:両側性障害があるが、姿勢保持の障害なし。
Ⅲ:立ち直り反射に障害がみられる。職種によっては仕事をすることが可能である。機能障害は軽度から中等度であるが、まだ自立した生活することができる。
Ⅳ:病気は進行し、重度の機能障害を有する状態。患者はまだ歩行や起立することを支えなしにできるが、いろいろなことが明らかにできなくなっている。
Ⅴ:介助なしには、ベッドまたは車椅子に移れない状態。介助なしでは歩行することができない。
この分類は簡便であるため、世界中で広く用いられているが、最近ではより詳細に分類した修正Hoehn and Yahr重症度分類を用いることも多い。
0度:パーキンソニズムなし。
1度:一側性パーキンソニズム。
1.5度:一側性パーキンソニズムおよび体幹障害。
2度:両側性パーキンソニズムだが平衡障害なし。
2.5度:軽度両側性パーキンソニズムおよび後方突進あるが自分で立ち直れる。
3度:軽度~中等度両側性パーキンソニズムおよび平衡障害、介助不要。
4度:高度パーキンソニズムおよび平衡障害、歩行は介助なしで何とか可能。
5度:介助なしでは車椅子、またはベッドに寝たきり、介助でも歩行困難。
ここでいうパーキンソニズムとはパーキンソン病の4つの主要症候、すなわち
①振戦 ②固縮 ③動作緩慢 ④姿勢反射障害のうち少なくとも2つの症候を発現している状態をいう。
<参考文献>
  1. 大江田 知子:【知っておくべき高齢者の評価法】 各論 精神・神経疾患 UK Brain Bankの臨床的パーキンソン病診断基準,Hoehn and Yahr分類,MMSE、JIM: Journal of Integrated Medicine (0917-138X)、21巻11号; Page896-900、2011.11
  2. 武田 克彦:リハビリテーション用語の起源を訪ねる Hoehn-Yahr grading stage 、Journal of Clinical Rehabilitation (0918-5259)、24巻4号 ;Page401、2015
  3. Hoehn MM,Yahr MD:Parkinsonism:onset, progression, and mortality.Neurology、17;427-442, 1967.
(弘中祥司)

ミールラウンド(meal round)

医師,歯科医師,管理栄養士,看護師,歯科衛生士,介護支援専門員その他の職種の者が,認知機能や摂食嚥下機能の低下を伴う施設入所者に対し,机や椅子の高さなどの食事の環境,食事の姿勢,食事のペースや一口量,食物の認知機能,食具の種類や使用方法,食事介助の方法,食事摂取量,食の嗜好を観察し,カンファレンスなどを行い入所者ごとに経口摂取の維持支援の充実を図ること。「多職種による食事の観察評価」ともいう。
平成27年度の介護報酬改定では,経口維持加算の要件を変更して経口摂取の維持支援を充実させる観点より,多職種によるミールラウンドやカンファレンスなどの取り組みのプロセス,および咀嚼能力などの口腔機能を踏まえた経口維持のための支援を評価するようになった。
(大神浩一郎)

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2020年度第7回理事会議事録 「老年歯科医学用語辞典 追加用語」を更新しました。