在宅歯科医療における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対策に関する注意喚起

更新

日本老年歯科医学会 理事長 佐藤裕二

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大にともない,医療現場での感染拡大や医療者への感染に対して懸念が広まっています。本学会では,感染リスクが高い在宅歯科医療現場で働く歯科医療者への現時点での注意喚起をまとめました。状況の変化により変更する可能性があります。皆さまにおかれましては本注意喚起を参考にしていただき,状況(所属施設の方針や国・都道府県の要請)に応じた適切な対応をお願いいたします。

感染ルート
COVID-19は,咳やくしゃみなどから感染する飛沫感染や直接口や鼻の粘膜に接触する接触感染によって起こります。また,歯科治療時などで発生するエアロゾル被曝によっても感染します。特に,在宅歯科医療での歯科治療や口腔ケアなどの処置時には,患者の唾液の飛散や切削による飛沫拡散が起こるため,飛沫感染や接触感染のリスクが高まります。不用意な処置は,医療者への感染や,他の患者への水平感染のリスクを高めることになります。
海外での経鼻手術からの新型コロナウイルスへの感染拡大事例を受け,日本脳神経外科学会や日本耳鼻咽喉科学会では,内視鏡による下垂体手術や鼻腔や咽頭の手術に関して,不急の手術の延期などが推奨されました。また,日本口腔外科学会からも口腔外科の対応に関する注意喚起がなされています。在宅 歯科医療においても実施される嚥下内視鏡検査では,鼻腔内に直接器具を挿入するため感染リスクが高いとイギリスの耳鼻咽喉科学会の指針で報告され,日本嚥下医学会から「感染傾向が拡大している地域」では嚥下内視鏡検査の延期が推奨されています。

在宅歯科医療における注意点
COVID-19の罹患者が急速に増えており私たちが診る患者が市中感染しているリスクも高まっています。特に,感染傾向が拡大している地域では,医療スタッフへの感染,患者への水平感染のリスクを考慮し,不急な処置,検査は延期等を検討してください。ただし、口腔衛生状態の低下による誤嚥性肺炎の発症等が懸念されますので、電話等での施設,患家との連携・指導は重要です。
どうしても必要な処置,検査を行う場合には,以下の点についてご留意ください。診療を行う際には,あらかじめ体温測定を行い,もしくは発熱の有無について聴取しましょう。また,訪問前に以下について聴取することが重要です。本人または同居者に「14日以内の発熱がないか。味覚障害・嗅覚障害はないか。14日以内の海外渡航歴や帰国者との濃厚接触がないか。14日以内に COVID-19感染者との接触はないか。14日以内に屋内で50人以上が集まる集会・イベントに参加したことがないか。」
これらの項目に該当する場合,治療の延期を検討すべきです。この際,安易に医科の受診を勧めず,慎重に対応して下さい。
必要な処置,検査を行う場合には,処置時の術者ならびに他のスタッフも,感染対策に留意してください。標準予防策はもちろんのこと,感染リスクの高い処置の場合には,個人防護具(personal protective equipment:PPE, ガウン,グローブ,マスク,フェイスガード)の着用が必要になります。

以上,COVID-19の拡大しつつある現在,患者と歯科医療者の安全確保のために,十分な感染対策につきましてご留意くださいますようお願いいたします。

参考文献(URLは2020/4/3現在)

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